数日後、街の中心にある古い広場で、再び時間の歪みが確認された。
  和希が走ってきて報告する。
 「さっきの亀裂、また出た! 今度は長く開いたまま閉じない!」
  早苗が眉をひそめる。
 「もう残滓はほとんど消えてるはずなのに……」
  菜々は懐中時計を取り出し、光を当てた。
  針が狂ったように逆回転を始める。
 「これ、残滓じゃない……完全に別の時間軸と繋がってる」
  将吾が険しい顔をする。
 「別の時間軸? 誰がそんなことを……」
  その瞬間、亀裂から黒い霧が溢れ出した。
  真由は健心の腕を掴む。
 「また来るの……?」
 「大丈夫、俺がいる」健心は彼女の手を握り返した。
  霧の中から姿を現したのは、全身が鎧に覆われた人影だった。
  顔は見えず、ただ赤い光の目が二つ光っている。
  その声は低く響いた。
 「“鍵”を持つ者たち……やっと見つけた」
  健心は身構える。
 「お前は誰だ!」
  鎧の人物は一歩進み出て答えた。
 「私はクロノスの代行者。お前たちが壊した時間の均衡を正す者だ」
  その言葉に菜々が目を見開いた。
 「クロノス……時間を司る伝説の存在!?」
  代行者は無言で手をかざし、周囲の時空が一気に凍りつく。
  鳥の羽ばたきが止まり、落ちる葉も空中で静止した。
  将吾が前に出る。
 「時を止める力……本物か」
 「均衡を壊す者たち。お前たちは存在してはいけない」
  代行者の目が健心と真由に向けられた。
  健心は真由を後ろにかばい、声を張る。
 「俺たちは未来を守っただけだ! 均衡を壊した覚えなんてない!」
 「言い訳は無意味だ。均衡は絶対だ」
  その瞬間、時間が再び動き出し、代行者が剣を振りかざして突進してきた。
  和希が前に出て剣で受け止める。
 「くっ……重い!」
  早苗が支援し、菜々が鎖で代行者を拘束しようとするが、鎖は一瞬で粉々になった。
 「……無理よ、次元が違う」菜々が息をのむ。
  真由は懐中時計を握りしめ、健心を見つめた。
 「私たちの力で止めよう!」
 「行くぞ!」
  二人の紋様が輝き、時計の針が逆回転を始める。
  光が代行者を包み込むが、赤い目は冷たいままだった。
 「無駄だ。お前たちの力では届かない」
  代行者の声と同時に、二人の体が弾き飛ばされた。
  地面に倒れ込んだ健心は唇を噛む。
 「……強すぎる……」
  代行者は剣を構えたまま言い放つ。
 「次に会うとき、お前たちの存在は消えている」
  そう言い残して、亀裂の中へと消えた。
  静まり返った広場で、誰も動けずにいた。
  真由が震える声で呟く。
 「健心……私たち、消されちゃうの?」
  健心は彼女の手を強く握り返した。
 「いや……絶対に守る。何が来ても」