波打ち際の約束―再会した幼なじみと始まるひと夏の恋

 真由は毎晩、日記帳を読み返していた。
  過去の自分が残した文字はどれも生き生きとしており、そこには健心との思い出が何度も描かれていた。
  笑い合った日、ケンカした日、泣きながら支えてくれた日――どれも心に響く言葉ばかりだった。
  放課後の教室、真由は健心に声をかけた。
 「ねぇ、これ……私が書いてたんだって、なんか不思議だね」
  健心は笑って答えた。
 「そうだな。未来のことも書いてあったか?」
 「ううん。でも、私たち、何度も一緒にいたんだなって……わかっただけでうれしい」
  そこに早苗が顔を出した。
 「ねぇねぇ、日記を読み返すのって、過去と話してるみたいだよね」
  和希も続く。
 「でもそれって、記憶が戻るきっかけになるんだろ?」
 「うん。昨日、夢の中でちょっとだけ覚えてる景色を見たの。健心と花火を見てたんだ」
  真由は頬を赤らめた。
 「それって……きっと大事な思い出だ」健心は真剣な声で言った。
  菜々が教室に入り、懐中時計を差し出した。
 「この時計、もう呪いはない。でも、記憶の補助装置として使えるように調整したの」
 「補助装置?」
 「ええ、日記を読みながらこれを握ると、記憶を呼び覚ましやすくなる」
  真由は懐中時計を受け取り、深く息を吸った。
 「やってみるね」
  彼女は時計を握り、日記を開いた。
  一瞬、視界が白く染まり、映像のように過去の光景が広がった――
  健心と共に走った帰り道、ふざけあった廊下、そして……健心に背中を押されて泣いたあの日。
  真由の頬を涙が伝った。
 「思い出した……全部じゃないけど、これ……私の気持ちだ」
  健心が近づき、優しく言った。
 「無理に全部戻さなくてもいいさ。今の気持ちがあるなら、それで十分だ」
  真由は健心を見つめ、少し照れながら笑った。
 「じゃあ……一つ、言わせて」
  彼女は胸に手を当て、勇気を出すように言葉を紡いだ。
 「私、あなたが好き。記憶がなくても、気持ちはちゃんとある」
  教室が静まり、健心は一歩前に出た。
 「……俺もお前が好きだ。これから先も、何度でも好きになる」
  その言葉に、真由は涙を拭い、笑顔を浮かべた。
  窓の外で春風が吹き抜け、日記のページが一枚めくれた。
  そこには昔の真由の文字でこう書かれていた――
  「未来の私へ。健心を信じて。絶対に」