健心は、午前零時の校舎裏に立っていた。古びた時計塔の針が重々しく動く音が、やけに大きく響いている。
そこは、数時間前まで生徒会の会議が行われていた場所だ。
だが今は誰もいない――いや、いた。
真由だ。
五年前、ある出来事を境に音信不通になった彼女が、そこに立っていた。
まるで何事もなかったかのように。
「……真由、なのか?」
「久しぶりね、健心」
彼女の笑みは昔と変わらない。けれど、雰囲気は違っていた。目の奥に、何か決意めいた影が差している。
その時、時計塔の針が止まった。秒針の音も消え、風すら止んだように感じる。
「時は、止まった?」
「違うわ、戻ったのよ」
真由が手にしていたのは、古びた懐中時計だった。表面に刻まれた紋様は、まるで呪文のような曲線を描いている。
「これで、五年前に戻れるの」
「……五年前?」
あの時――真由が突然姿を消した日。
健心の胸に、あの時言えなかった言葉が込み上げる。
だが次の瞬間、強烈な光が二人を包み、意識が遠のいていった。
目を覚ますと、そこは五年前の教室だった。
窓の外に広がる景色も、制服のデザインも、すべてが過去だ。
ただ一つ違うのは、真由が健心の手を強く握っていたこと。
「やり直すのよ、健心。あの時の私たちを」
「何を……やり直すっていうんだ?」
「あなたが私を止めなかったこと。私があなたを信じ切れなかったこと。そして――」
真由は、ぎゅっと唇を噛んだ。
「――この街が消える未来を変えること」
その瞬間、教室の扉が乱暴に開いた。
立っていたのは和希と早苗だ。
「おい、何してるんだ二人とも!」
「健心、真由、その時計……危険よ!」
早苗の目が、あの懐中時計に釘付けになる。
彼女はこの時計の伝承を知っていた。使えば使うほど、代償として持ち主の大切な記憶が消えていくという呪いだ。
「やめなさい! それ以上使えば……」
その言葉を遮るように、懐中時計が赤く光る。
次の瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。
気がつけば健心は屋上に立っていた。真由の姿がない。
代わりに、見知らぬ男――将吾が、血のように赤い目で健心を見下ろしていた。
「時間を越えるなんて、いい度胸だな」
将吾の声は低く、しかしどこか悲しげだった。
「お前は……誰だ?」
「この街を守る者。そして、時間を守る者」
その瞬間、健心は悟った。将吾は未来から来たもう一人の自分なのだと。
運命は変わるのか、それとも……。
そこは、数時間前まで生徒会の会議が行われていた場所だ。
だが今は誰もいない――いや、いた。
真由だ。
五年前、ある出来事を境に音信不通になった彼女が、そこに立っていた。
まるで何事もなかったかのように。
「……真由、なのか?」
「久しぶりね、健心」
彼女の笑みは昔と変わらない。けれど、雰囲気は違っていた。目の奥に、何か決意めいた影が差している。
その時、時計塔の針が止まった。秒針の音も消え、風すら止んだように感じる。
「時は、止まった?」
「違うわ、戻ったのよ」
真由が手にしていたのは、古びた懐中時計だった。表面に刻まれた紋様は、まるで呪文のような曲線を描いている。
「これで、五年前に戻れるの」
「……五年前?」
あの時――真由が突然姿を消した日。
健心の胸に、あの時言えなかった言葉が込み上げる。
だが次の瞬間、強烈な光が二人を包み、意識が遠のいていった。
目を覚ますと、そこは五年前の教室だった。
窓の外に広がる景色も、制服のデザインも、すべてが過去だ。
ただ一つ違うのは、真由が健心の手を強く握っていたこと。
「やり直すのよ、健心。あの時の私たちを」
「何を……やり直すっていうんだ?」
「あなたが私を止めなかったこと。私があなたを信じ切れなかったこと。そして――」
真由は、ぎゅっと唇を噛んだ。
「――この街が消える未来を変えること」
その瞬間、教室の扉が乱暴に開いた。
立っていたのは和希と早苗だ。
「おい、何してるんだ二人とも!」
「健心、真由、その時計……危険よ!」
早苗の目が、あの懐中時計に釘付けになる。
彼女はこの時計の伝承を知っていた。使えば使うほど、代償として持ち主の大切な記憶が消えていくという呪いだ。
「やめなさい! それ以上使えば……」
その言葉を遮るように、懐中時計が赤く光る。
次の瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。
気がつけば健心は屋上に立っていた。真由の姿がない。
代わりに、見知らぬ男――将吾が、血のように赤い目で健心を見下ろしていた。
「時間を越えるなんて、いい度胸だな」
将吾の声は低く、しかしどこか悲しげだった。
「お前は……誰だ?」
「この街を守る者。そして、時間を守る者」
その瞬間、健心は悟った。将吾は未来から来たもう一人の自分なのだと。
運命は変わるのか、それとも……。



