「ねぇ、ちょっと呉服屋に付き合ってよ」
「……え?」
かまくらでぬくぬくしていたら、江戸くんに突拍子もなくそう言われ、思わず聞き返してしまう。
「動きやすさ重視ならオレみたいに洋服で良いんじゃない?」
何かを察したのか平成くんのお餅を食べながら口を挟む。
「女性の袴も良いですよね。着物より動きやすいですし、和服ですし」
明治さんも何故か袴を提案する。
「武器は何が良いでしょうねぇ」
「無難に刀……とか?」
「いや、刀より薙刀とかの方が良いと思うぞ」
「良いですね、薙刀」
「奈良さん、薙刀は良い選択ですわ。見栄えますし、体力がなくても長さと遠心力を利かせて戦えますわ」
明治さんは真面目な顔で頷いているし、戦国さんは完全に乗り気だ。
「平成の武器って何だったの?」
「輝光刀!」
「光る刀か。……夜間の奇襲に向いてるいな」
「柄を握ると光が刀になるんだよ!」
「刀が光るでありますか?」
(みんなが何の話で盛り上がってるのか、全く分からない……)
まだ知識が浅い私は会話の意味が分からず、隣にいた古墳くんに助けを求める。
「えーっと、厄災と戦うことになった時に使う武器の話ちゃう?服装は……何やろな」
質問に古墳が答える。
「初めて女の子が来たからみんな、舞い上がっているのですよー!」
「お爺ちゃんが孫をめいいっぱい甘やかすのと同じ余裕ばい!」
「ジジイだぞ!」
奈良さんが振り返ってニコッと言った。
「そうだ、若人本人に決めてもらえば良いんじゃないか?」
「だから呉服屋に行こうって誘ったのに……」
少し不機嫌になった江戸くんの肩を大正くんが叩く。
「令和っちの振袖姿、俺も見たーい!」
「未婚女性の第一礼服ですしね」
「私まだ中学生ですよ!?」
「中学生でも着られますよ」
明治さんがさらっと言う。
「むしろ今のうちに仕立てて、少し大きめに作っておけば長く着られます」
「そうそう」
昭和くんも頷いた。
「成長期を見越すのは基本だぞ。軍服だって――」
「はいはい、その話は後で〜」
大正くんがやんわり遮る。
「普段着でも着れるし、どうかな?」
全員の視線が、また私に集まる。 さっきまでの武器談義とは違って、今度はやけに静かだ。
「振袖、かぁ……」
頭の中で想像してみる。 テレビや写真で見たことはあるけれど、自分が着るとなると、急に現実味がなくなる。
「動きやすそうな袴が良い……かな」
口に出した瞬間、平成くんが勝ち誇ったように親指を立てた。
「やっぱ実用性だよ実用性!オレの言った通りじゃん!」
ということで、江戸くんと明治さんと平成くんと一緒に江戸時代の呉服屋さんに来た。
引き戸を開けた瞬間、ふわりと鼻をくすぐるお香の匂い。
壁一面に掛けられた反物は、色も柄もさまざまで、見ているだけで目が回りそうだ。
赤、紺、若草色、桜色。金糸がきらりと光るものもあれば、落ち着いた地紋だけのものもある。
今の時期にぴったりの雪の模様の反物もある。
江戸時代は一番、着物の柄が多い時代なんだって。
四季・植物・風景・物語・縁起物・抽象模様まで何でも柄にして、同じ桜でも色々な描き方があったんだって。
私はきょろきょろと店内を見回しながら、思わず足を止めた。
どれも綺麗で、どれも意味がありそうで、目がいくつあっても足りない。
「……気になったのある?」
「色んな柄があって、どれがなんだか……」
江戸くんがくすっと笑う。
「意味、説明しようか」
そう言って、一反一反を指差しながら説明し始めた。
「派手な赤は若さの象徴。紺や鼠は粋で大人向け。桜は春だけど、散り際まで含めて“美”だから好まれたよ。雪柄は冬の着物に多いかな、清めや再生の意味もあるからね」
「季節限定って、しょーもない物でも惹かれるよね〜!」
平成くんはケラケラ笑う。
「季節問わず着れる『四君子』や『四季花』とかもあるよ」
蘭、竹、菊、梅などが丸く描かれた四君子。
小ぶりな桜、牡丹、あじさい、紅葉、椿などが描かれた四季花。
私は、江戸くんの説明を聞きながら、ひとつの反物の前で足を止めた。
向日葵色の生地に白色や淡い水色の小ぶりな花が散りばめられている反物で、可愛らしい。
「……これ、良いかも」
ぽつりと呟くと、平成くんがすぐに反応する。
「良いじゃん良いじゃん!」
「袴は紺や深緑色が良いんじゃないかな」
江戸くんは即答し、その反物を購入した。
「で、誰が仕立てるの?」
「僕が仕立てるよ。こう見えて裁縫は得意だし」
「では僕は袴を仕立てますね。男性用と女性用は若干違うんですよ」
江戸くんと明治さんが仕立ててくれることになった。
「……え?」
かまくらでぬくぬくしていたら、江戸くんに突拍子もなくそう言われ、思わず聞き返してしまう。
「動きやすさ重視ならオレみたいに洋服で良いんじゃない?」
何かを察したのか平成くんのお餅を食べながら口を挟む。
「女性の袴も良いですよね。着物より動きやすいですし、和服ですし」
明治さんも何故か袴を提案する。
「武器は何が良いでしょうねぇ」
「無難に刀……とか?」
「いや、刀より薙刀とかの方が良いと思うぞ」
「良いですね、薙刀」
「奈良さん、薙刀は良い選択ですわ。見栄えますし、体力がなくても長さと遠心力を利かせて戦えますわ」
明治さんは真面目な顔で頷いているし、戦国さんは完全に乗り気だ。
「平成の武器って何だったの?」
「輝光刀!」
「光る刀か。……夜間の奇襲に向いてるいな」
「柄を握ると光が刀になるんだよ!」
「刀が光るでありますか?」
(みんなが何の話で盛り上がってるのか、全く分からない……)
まだ知識が浅い私は会話の意味が分からず、隣にいた古墳くんに助けを求める。
「えーっと、厄災と戦うことになった時に使う武器の話ちゃう?服装は……何やろな」
質問に古墳が答える。
「初めて女の子が来たからみんな、舞い上がっているのですよー!」
「お爺ちゃんが孫をめいいっぱい甘やかすのと同じ余裕ばい!」
「ジジイだぞ!」
奈良さんが振り返ってニコッと言った。
「そうだ、若人本人に決めてもらえば良いんじゃないか?」
「だから呉服屋に行こうって誘ったのに……」
少し不機嫌になった江戸くんの肩を大正くんが叩く。
「令和っちの振袖姿、俺も見たーい!」
「未婚女性の第一礼服ですしね」
「私まだ中学生ですよ!?」
「中学生でも着られますよ」
明治さんがさらっと言う。
「むしろ今のうちに仕立てて、少し大きめに作っておけば長く着られます」
「そうそう」
昭和くんも頷いた。
「成長期を見越すのは基本だぞ。軍服だって――」
「はいはい、その話は後で〜」
大正くんがやんわり遮る。
「普段着でも着れるし、どうかな?」
全員の視線が、また私に集まる。 さっきまでの武器談義とは違って、今度はやけに静かだ。
「振袖、かぁ……」
頭の中で想像してみる。 テレビや写真で見たことはあるけれど、自分が着るとなると、急に現実味がなくなる。
「動きやすそうな袴が良い……かな」
口に出した瞬間、平成くんが勝ち誇ったように親指を立てた。
「やっぱ実用性だよ実用性!オレの言った通りじゃん!」
ということで、江戸くんと明治さんと平成くんと一緒に江戸時代の呉服屋さんに来た。
引き戸を開けた瞬間、ふわりと鼻をくすぐるお香の匂い。
壁一面に掛けられた反物は、色も柄もさまざまで、見ているだけで目が回りそうだ。
赤、紺、若草色、桜色。金糸がきらりと光るものもあれば、落ち着いた地紋だけのものもある。
今の時期にぴったりの雪の模様の反物もある。
江戸時代は一番、着物の柄が多い時代なんだって。
四季・植物・風景・物語・縁起物・抽象模様まで何でも柄にして、同じ桜でも色々な描き方があったんだって。
私はきょろきょろと店内を見回しながら、思わず足を止めた。
どれも綺麗で、どれも意味がありそうで、目がいくつあっても足りない。
「……気になったのある?」
「色んな柄があって、どれがなんだか……」
江戸くんがくすっと笑う。
「意味、説明しようか」
そう言って、一反一反を指差しながら説明し始めた。
「派手な赤は若さの象徴。紺や鼠は粋で大人向け。桜は春だけど、散り際まで含めて“美”だから好まれたよ。雪柄は冬の着物に多いかな、清めや再生の意味もあるからね」
「季節限定って、しょーもない物でも惹かれるよね〜!」
平成くんはケラケラ笑う。
「季節問わず着れる『四君子』や『四季花』とかもあるよ」
蘭、竹、菊、梅などが丸く描かれた四君子。
小ぶりな桜、牡丹、あじさい、紅葉、椿などが描かれた四季花。
私は、江戸くんの説明を聞きながら、ひとつの反物の前で足を止めた。
向日葵色の生地に白色や淡い水色の小ぶりな花が散りばめられている反物で、可愛らしい。
「……これ、良いかも」
ぽつりと呟くと、平成くんがすぐに反応する。
「良いじゃん良いじゃん!」
「袴は紺や深緑色が良いんじゃないかな」
江戸くんは即答し、その反物を購入した。
「で、誰が仕立てるの?」
「僕が仕立てるよ。こう見えて裁縫は得意だし」
「では僕は袴を仕立てますね。男性用と女性用は若干違うんですよ」
江戸くんと明治さんが仕立ててくれることになった。



