日ノ本時代男子

焚き火がゆらゆらと揺れる。

「はい、猪(いのしし)の串焼き。脂(あぶら)がのってて美味しいよ」

「美味しそう!猪なんて食べたことないから、ちょっと緊張する……!」

縄文くんが渡してくれた串を、恐る恐る一口。

―――じゅわ、と口いっぱいに肉汁が広がった。

「うんまっ!?」

「でしょ?やっぱり猪は美味しいよね。あ、どんぐりもアク抜きしてすり潰して……」

縄文くんは自分のことのように得意げに胸を張る。その横では、弥生くんが鼻歌を歌いながら、楽しそうにどんぐりを平らな石の上で粉状にすり潰していた。

待って、どんぐりを食べなきゃいけないの……?

(いや、変なこと考えない!今は、猪肉を食べよう。食べることに集中する!)

猪肉を食べている最中、私はずっと気になっていた疑問を、隣で静かに見守ってくれている明治さんに尋ねてみた。

「どうして僕達が生まれたか、ですか?」

「はい!化身って言われてもよく分からなくて……」

「縄文くんの方が詳しいんじゃないですかねぇ……一番初めに生まれた時代ですし」

​明治さんは首を傾げながら、器用に焼けた肉を大きな葉っぱに包んでいた縄文くんを指差した。

「え、僕?」

不意に話を振られた縄文くんが丸い目を瞬かせる。

「お願い!」

「んー……神話と歴史が混じった時代まで遡(さかのぼ)るし、僕の推測がほとんどだけど、それでも良いの?」

縄文くんの質問に、こくこくと頷く。

彼は少し考え込み、口を開いた。

「元々は水や土の集合体でしかなかった土地に、人々が住んで、生きて、愛着を持って文明を築いた時点で僕達が生まれたんだと思う。自然発生に近いんじゃない?」

✳✳✳

翌日。

今度は弥生くんと手を繋ぎ、視界がぐにゃり。

次に目を開けた時には、青々とした田んぼが目の前に広がっていた。

「ここは……弥生時代?」

「そうばい!稲作ん時代ばい!」

眩しい笑顔で振り返った弥生くんの両手には苗。

「こん格好やと汚るるけん着替ゆる」

彼は手をパチンと合わせる。

すると、何処から飛んできたのか分からない土偶みたいな土人形が私達の視界をおおう。

「わ、え、すごっ!」

気づけば、魔法少女みたいに衣装チェンジしている!

体にぴったり合う短めの布を身に着け、活動的に動けるようになっていた。色は自然の植物染料で赤や茶、緑など控えめな色合いが多い。

「布は麻が中心やったばってん。袖なしで動きやすさも考えられとるけん、田畑仕事も効率的にでくるんばい!」

服装の説明をしてくれる弥生くんも同じ衣装だ。

「動きやすさ重視、良いですね」

「明治さんは身長高いし意外と細マッチョだね。僕にもこれくらい筋肉があれば、美空ちゃんも僕のこと……」

縄文くんが明治さんの上腕二頭筋を見ながらブツブツ呟く。

「工業でも体力を使いますし、力をつけないと列強にはなれませんからね」

「……鍛えようかな」

「準備もできたし田植えぎゃ行こう!」

弥生くんに手を引かれ、田んぼのあぜ道を歩く。柔らかな泥の感触が足裏に伝わる。

「まずは、苗ば丁寧に植えるとよ。根っこを泥にしっかり差し込むことがポイントばい」

そう言われ、私も小さな苗を手に取り、そっと泥に差し込む。指先に伝わるひんやりとした感触。

「もう腰が痛くなってきた……」

「まだ一列も植えとらんとに!?」

「農作業とか普段しないから……」

「そんなん言うと、苗も怒るばいよ〜!こうやって丁寧に植えると根っこがしっかり土に食いつくけん、成長も良くなるとよ」

「おぉー!」

見れば、確かに弥生くんが植えた苗は、一本一本がシャキーンと綺麗に直立している。それに比べて、私が植えたヘロヘロの苗は、今にも泥の中に倒れそうなほどシナーンと力なく傾いていた。

「根っこばしっかり土に差し込まんと、水ば吸う力が弱くなるけん、もう一回やってみるとよ」

そう言われ、もう一度苗を手に取る。泥のひんやりした感触が指先に伝わり、慎重に根を差し込む。

少し力を入れて土を押さえると、苗がピーンと立った。

「できた……!」

弥生くんはその様子を見て満足そうに頷く。

「よかよか!こうやって丁寧にやると、稲も元気に育つばい」

「農家さんに感謝ですね」

明治さんがしみじみと頷く。

ふと横を見ると、いつの間にか縄文くんは田植えの労働からさっさと脱落し、あぜ道の向こうで楽しそうに粘土を捏ねて土器作りの場所に混ざっていた。

「縄文くんはあっちの方が向いていたかもしれませんね」

「確かに」

「あ、そろそろ休憩ばい!」

弥生くんは田んぼの端に腰を下ろす。私も泥のあぜ道に座り込み、足の泥を落としながら一息ついた。

​――なお、翌日の朝、布団から起き上がれないほどの凄まじい全身筋肉痛に襲われ、半泣きで学校へ登校する羽目(はめ)になったのは、言うまでもない。