日ノ本元号男子

合図も何もなかった。
最初の一発を放ったのは―――
「撃てぇぇぇ!!」
私達のグループのリーダー・昭和くんだった。
それを合図にしてそれぞれ雪玉を飛ばしていく。
雪玉ランチャーから放たれた雪玉が、ひゅるるっと弧を描いて飛ぶ。
「うわっ!?」
「何でそんな物があるんだ!」
中世グループの陣地に、次々と雪玉が降り注ぐ。
文明の力、強い。
「前に出るであります!」
「私も応戦しますわ!」
安土桃山くんと戦国さんが同時に飛び出した。 低い姿勢で走り、雪壁を盾に距離を詰める。鎌倉さんと室町くんは距離を取りながら雪玉を投げ付けている。
「南北!補充急げ!」
「「分かった!」」
南北ツインズが手際よく雪玉を渡していく。 完全に戦。
一方その頃―――
「もう少し固めた方が良いかな?」
「滑ってつこけてはいかんばい、気をつけんと!」
「ここらへん補強しな、すぐ崩れんで」
「足元に注意なのですよー!」
「平安、この雪山何日くらい保つと思う?」
「正月十五日くらいまでやろなぁ」
古代グループはというと、雪壁づくりに夢中だった。
雪合戦は、完全に三方向から入り乱れる形になっていた。
「くっ……近代組、弾幕が厚すぎであります!」
安土桃山くんが雪壁に身を伏せながら叫んだ直後、雪玉ランチャーの一斉射が降り注ぎ、壁の上部がごそっと削れた。
「昭和!少し撃ちすぎ!前線が見えない!」
「勢いが大事だ、勢いがぁ!」
「それで弾切れ起こしたら意味ないからね!?」
大正くんと昭和くんが後方で言い合っている。
一方、前に出ていた戦国さんは、雪を蹴って一気に距離を詰めた。
「近代の皆さん、隙だらけですわ!」
「うわっ、来た!」
「迎撃――!」
だが、戦国さんの動きは速い。 雪壁の陰から陰へ、滑るように移動しながら、的確に雪玉を投げてくる。
その時だった。
―――ずずずっ。
低い音と共に、戦場の端で何かが動いた。
「……あれ?」
誰かがそう呟いた瞬間。
「完成したですよー!」
古代グループの方から、やけに達成感のある声が響いた。
振り向くと、そこには、 雪壁どころではない大きな――かまくらが鎮座していた。
「でっか……」
「雪合戦してる間に何作ってんの!?」
「立派やろう?」
平成くんのツッコミに、平安さんが満足そうに腕を組む。
入口の奥を覗くと、奈良さんが雪で作った小さな大仏を鎮座させ、弥生くんが(わら)代わりの枯れ草を敷いている。 どう見ても雪合戦用の施設ではない。
「札幌雪まつり……?」
「ここ米原やで」
平成くんの呟きに古墳くんが冷静にツッコむ。
「しかも開催時期がズレていますしね」
明治さんの追撃に、平成くんがぐぬっと言葉に詰まる。
「防御力に全振りしたらこうなるんだ……」
「雪合戦の概念が変わってきてるよね……」
私が呆然としている間にも、戦場は止まってくれない。
「古代組、完全に要塞化(ようさいか)しているでありますね……」
安土桃山くんが雪壁の陰から顔を出し、かまくらを指差す。
「しかも中に大仏がいるね」
「よく作ったな……これを」
「精神的圧迫が凄いですわね……」
江戸くんと鎌倉さんが中を覗き込み、戦国さんが真顔で呟いた直後、かまくらの入口から、ぽいっ、と雪玉が放られた。
「狙って投げてないですよー!転がっただけなのですよー!」
「いや、狙ってたじゃん」
飛鳥くんの必死な弁解をぶった切る縄文くん。
「これは……一時停戦した方が良いのでは?」
鎌倉さんが冷静に提案するが、
「いや、まだだ!」
昭和くんが腕を上げた。
「武器を構えよ〜!……だっけ?」
平成くんが叫ぶのと同時に、雪玉ランチャーに雪玉がセットされる。
―――その瞬間。
「待った!」
凛とした声が雪原に響いた。
振り向くと、かまくらの前に立っていたのは平安さんだった。
「ここは戦場やないですよぉ」
静かな一言に、全員の動きが止まる。
「雪合戦もええですけどねぇ、せっかくやし――」
平安さんは、かまくらの入口を示す。
「中で暖まっていきますかぁ?」
「わーい!」
「ちょうど寒かったんだよなー」
「あ、南北が買収されてる」
「かまくらで食べる氷菓子は美味しいぞ〜?室町」
「それ先に言ってよ、奈良さん」
―――雪合戦は、あっけなく終わった。
「……ちょろ」
室町くんがかまくらに吸い込まれていくのを見て、奈良さんがぼそっと呟く。
「奈良さんが優秀な人材を引き入れた時の顔をしてるよ!」
かまくらの中は、思っていた以上に暖かかった。