⚪︎大学の学園祭当日。
医学部エリアは「医療体験コーナー」や模擬診察イベントで大にぎわい。
しずくは受付係として白衣姿で立ち、来場者を案内している。
人混みと春の陽気で、少し顔が火照っている。
向かいのブース──そこには、白衣姿の澪。
爽やかな笑みと落ち着いた応対に、女子たちが行列を作っている。
(女子A)
「ねえ、あの人めっちゃイケメンじゃない?」
「年上っぽい落ち着きやばい~!」
「えっ、手握って血圧測ってくれるの!?やば~!」
(しずく・心の声)
(……すごい人気。
いつもは静かなのに、こんな笑顔……)
胸が、きゅっとなる。
誰に向けた笑顔かも、手の触れ方も、全部が気になってしまう。
⚪︎休憩時間。人気のない器具搬入室。
しずくは偶然、廊下で澪と鉢合わせる。
セリフ(澪)
「やっと休憩取れた?顔、赤いよ。暑かった?」
セリフ(しずく)
「はい……ちょっと。人も多くて、バタバタで……」
澪が自販機でスポーツドリンクを買って、しずくに差し出す。
(澪)
「ちゃんと水分とって。無理しすぎるなよ?」
しずくが受け取ろうとすると、指がふれる。
ふいに澪の目が、まっすぐ彼女を見た。
(澪)
「……さっき、ずっとこっち見てたよね」
(しずく・焦って)
「えっ……あ、あの、それはっ……」
(澪・小さく笑って)
「俺のこと気にしてくれてた?ちょっと嬉しかった」
しずくの顔が真っ赤になる。
一歩、距離を取ろうとしたとき──
澪が、不意に前に立ちふさがり、声を低くする。
(澪)
「でも、ちょっと言ってもいい?」
(しずく・きょとんとして)
「……はい?」
(澪)
「君が他の男と話してるとき──
俺も、けっこうやきもち焼いてた」
空気が止まる。
静かな倉庫の中に、二人の距離だけが息をしている。
しずくの心臓が跳ねる音が、自分にだけ聞こえる気がする。
(しずく・小声で)
「……ほんとに?」
(澪・目を逸らしながら)
「……たぶん、思ってた以上に」
ほんの少しだけ近づく澪。
でも触れない。その一歩手前で、優しい間合いを保つ。
(澪)
「今日は、たくさんの人に笑って疲れた。
でも──君がくれた視線が一番、安心した」
その言葉に、しずくの頬にふっと笑みがこぼれる。
自分だけが知っている“澪の顔”が、そこにある。
⚪︎イベント終了後、夕暮れの大学前。
学生たちがそれぞれの疲れを残して帰っていく。
校門の前。しずくと澪が並んで立つ。
(澪)
「よくがんばったね、今日。
受付のしずくちゃん、白衣似合ってたよ」
(しずく・照れながら)
「そ、そうですか……?
澪さんも、“白衣の王子様”って言われてました」
(澪・小さく笑って)
「俺、君にだけ“普通の人”って思われてたいかも」
ふいに足元に風。
しずくの髪がふわりと舞い、澪の指先がそっとそれを直す。
(澪・低くやさしく)
「また明日、会える?」
(しずく)
「……はい」
照れ隠しに小さくうなずくしずく。
恋の輪郭が、ほんのり色を帯びてきた。



