春の大学病院キャンパス──医学生たちの新学期が始まる。


⚪︎桜が舞う大学の中庭。
新入生たちがパンフレットを手に、わくわくと建物へと入っていく。
その中に、ひときわ背が高く、落ち着いた雰囲気の青年の姿──彼はどこか迷いながら講義室を探している。

(青年・心の声)
「まさか、また医学生になるとはな……。あの頃と何もかも違う」




⚪︎講義室──医学生1年生の基礎医学の初回授業


ざわつく教室内。
18歳の一ノ瀬しずくは、緊張と期待でいっぱいの表情。
後ろの席に座ろうと振り返ったそのとき──

(しずく)
「あっ、すみません……ここ、どなたか……?」


振り返った先に、目が合う。
そこにいたのは、同じ白衣をまとった──けれど明らかに他の新入生とは雰囲気の違う男性。

(澪)
「どうぞ、座って。俺も今日から、ここの1年生だ」


しずくは驚きで目を丸くする。

(しずく)
「……あの、もしかして……年、上ですよね?」

(澪)
「うん、ちょっとね。俺、元・理学療法士。名前は朝比奈 澪(あさひな みお)。よろしくね」



⚪︎講義中──しずくは落ち着かない様子


教授の声が聞こえているようで、聞こえていない。
隣からふと感じる視線に、しずくは思わず顔を上げる。
澪が小さく微笑んでノートを指差す。

(澪)
「ここ、さっきのスライドと違う内容。間違えないようにね」

(しずく・小声)
「……ありがとうございます。なんだか、先生みたいですね」

(澪)
「教えるのは慣れてるから」


冗談のように言う澪。でもその目はどこかまっすぐで、しずくの心がドキッと跳ねる──。



⚪︎講義後、教室の外の廊下──


学生たちが出ていく中、しずくは澪に声をかける。

(しずく)
「朝比奈さんって、どうしてまた医学生に?」

(澪)
「……うん。いろいろあって、一度あきらめた夢を、もう一度追いかけたくなったんだ」


風が吹き抜け、しずくの髪が揺れる。

(しずく・小さく)
「……かっこいいですね。そういうの」

(澪・笑って)
「ありがとう。君も、なんで医者に?」

(しずく・照れながら)
「それは、秘密です……なんて。いつか話しますね」


そんなやりとりに、少しずつ距離が縮まるふたり──
それが、これから始まる恋のはじまりだった。