——ああ、もうだめだ。
澪は思った。
この人の前では、もう隠し事はできないかもしれない。
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その日を境に、澪と神崎の関係は、静かに変化していった。
会社の昼休み。小さな会議室。
澪が持ち込むお弁当と、神崎の缶コーヒー。会話の内容は、相撲一色。
「今日の稽古映像、観た?」
「はいっ。あのすり足、半端なかったです……っ」
「最近の若手で注目してるの、いる?」
「えっと……私、地方巡業で見たことあるんですけど、十両の翔馬(しょうま)関。あの左四つ、めちゃくちゃ好きで……!」
「いいセンスしてるね」
「……うう、そうやってすぐ褒めるの、ずるいです……」
「え、褒めたらだめ?」
「……だめじゃないですけど……っ」
——心臓に悪い。
そのうえ神崎は、たまに澪の髪に触れてくる。



