日曜日。
指定された稽古場は、古びた木造の建物だった。
澪が扉を開けると、すでに神崎が立っていて、にこっと笑った。
「よく来たね」
「……わ、私、ちゃんと見学できるか不安で……」
「大丈夫。兄も優しいよ。ちょっと……不器用だけど」
そうして稽古場の奥に案内された先で、白衣姿の男性が力士の髪に手を添えていた。
顔立ちは神崎に似ていたが、もう少し厳格で、目元に職人の鋭さが宿っている。
「あの……はじめまして。赤木澪と申します。今日は見学させていただき、ありがとうございます」
「……ああ。圭吾の、……彼女さん、か?」
「っ……え、えっと……」
「違ったか?」
「……い、いえ、……そうです、はい……!」
「そうか。まあ、座ってな」
兄・神崎清隆の言葉は素っ気なかったが、どこか照れくさそうだった。
髷を結う作業は、想像していたよりずっと静かで、凛としていた。
黒髪に油をなじませ、丁寧に櫛を入れ、形を整え、紙を巻いて、結い上げる。
動作はひとつひとつが流れるようで、神聖な儀式のようだった。



