「お嬢ちゃん、あんた、いい目してる。圭吾の隣にいてくれて、ありがとな」
「い、いえっ、私なんて……!」
「よかったら、また見に来いよ。朝稽古の時なんか、もっと面白いからな」
「……はいっ! ぜひ……!」
笑顔で応えながらも、澪の頬はほんのり赤くなっていた。
部屋を出たあと。
神崎は少し歩いてから、不意に立ち止まった。
「さっきの話だけどさ」
「……はい?」
「父親のこととか、床山をやめた理由とか……あまり人に話したことないんだ。……なんでだろうな、赤木さんには話せた」
「……え……」
「不思議と、話してもいい気がした。変かな?」
「変じゃ、ないです。私も……すごく、嬉しかったです」
——この人の“好き”の原点が、どこにあるのか。
澪は少しだけ、その場所に触れた気がした。



