「……美しい……」
澪の口から、思わず声が漏れた。
「お、見る目あるじゃん。嬉しいねえ、そう言ってもらえるのがいちばん」
床峰はにっと笑って、澪に目を向けた。
「髷ってのは、言ってみりゃ“力士の顔”なんだ。どれだけ強くても、髷が乱れてたら、土俵の上じゃ“締まらない”。逆に、勝てない日が続いてても、髷がきちんと結われてれば、心は折れない」
(……職人って、すごい)
澪は圧倒されていた。
“結う”という行為ひとつに、これほどの美学と誇りを持って臨んでいる人がいるなんて。
「兄貴、相変わらず熱いな」
「うるせえ。お前だって昔、結ってもらう側だったくせに」
「……あれ、めっちゃ痛かったからな。特に前髪のとこ」
「お前がちょろちょろ動くからだよ。あの頃、真面目に床山目指すって言ってたくせに、突然『大学行く』とか言い出してさ」
「……あれは仕方なかったろ」
神崎が静かに笑う。その横顔に、澪はふと疑問を抱いた。



