隠れスー女の恋の行方




部屋の一室には、畳敷きの床と鏡台。
明るすぎない自然光が差し込む中で、ひとりの若い力士が正座をしていた。まだ十代だろうか、肩に筋肉の線が浮かんだ、初々しい身体。

その背後で、大柄な男が手早く、しかし丹念に髪を梳いている。

床峰。神崎圭吾の兄であり、現役の床山だ。


「見てな、お嬢ちゃん。まずは“下地”を整える。髪ってのは、生きてるから、日によってコンディションが変わるんだ」


木櫛が静かに髪を滑る。


「地肌を傷つけず、でもしっかり根元から流す。それだけで、髷の土台がぜんぜん違う」


その手つきに、一切の迷いがなかった。まるで時間がゆるやかに流れているようにさえ見える。