春は、香りとともに。




「お母さま。……正直、困っております」


 そう言うと、母はふと口元を緩めた。


「そういう顔を、昔からするわね。困ったときの志野子の顔。……でもね、志野子、あんたの顔には、やっぱり花が似合うの。香りを持つ女って、ほんとうに貴重なのよ。だから……もう一度、あの世界に戻るのも、悪くはないわよ」


 戻る? どの世界に?

 そう訊き返そうとしたが、志野子は何も言わなかった。