春は、香りとともに。



 帳面を静かに閉じる。
 その余白に、香がふわりと立ちのぼったような気がした。

 惟道はそっと微笑み、針山を掌にのせた。
 志野子が贈ってくれた、あの柔らかな印。
 手にすると、なぜか胸の奥がじんわりと温まる。


「志野子さん」


 襖の向こうで気配が動いた。


「はい」

「ひとつ……香を焚きましょうか。“あなたの香”を、改めて」