春は、香りとともに。





 朝餉を終え、ふたりで食器を片付けると、雨脚がやや強くなった。

 庭に干す予定だった洗濯物は、そのまま縁側に干すしかなかった。
 細い竹竿を部屋の梁に渡し、ふたりで袖をまくって洗い物を掛けてゆく。


「こちらの手拭いは、藍が落ちやすいので、端を内に」

「……はい。気づかず、すみません」


 思わず謝ってしまった志野子に、惟道は静かに笑った。


「謝ることではありません。……洗濯にまで気を配るとは、あなたは本当に丁寧ですね」

「いえ……昔、母から“手を抜くと心が抜ける”とよく言われまして」


 志野子は、濡れた手拭いを絞りながら、どこか照れたように呟いた。
 そんな彼女の横顔を、惟道はふと見つめてしまっていた。

 白い布の間から覗く横顔。
 雨の音に紛れて聞こえる、小さな呼吸。


(……この光景を、美しいと思ってしまった)
 

 心の奥で、言葉にできない思いが芽生える。

 けれど、それを表に出す術がわからない。
 惟道は少し口元を引き締めて、話題を変えた。