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「……香道家、ですって?」
一応、お茶を出す。だが、この人は『まずいお茶だわね』と平然に言った。せっかく淹れてあげたのに……しかも結構いい茶葉だったのに。
茶を啜りながら聞いた相手の名に、志野子は驚きを隠せなかった。
その名――千原惟道(ちはら・ただみち)――は、志野子がまだ「志野さま」と呼ばれていた頃、令嬢教育の一環で香道を習った師の名だった。
年は父と同じか、それ以上。
背筋の伸びた静かな立ち姿と、香炉を扱う繊細な手つきが印象的だった。
志野子に香の基本を教え、時には厳しく、時には柔らかく問いかけてくれた。でも、奥様がいて病で亡くしたと聞いた。



