春は、香りとともに。




(“ふたり分”の朝餉……)


 食卓に向かって手を動かすことは、戦後の生活では“生きるため”だった。
 けれど今は違う。
 この部屋で食べる人の顔を思い浮かべながら、手を動かしている自分がいる。

 それが、嬉しかった。


「……あの、お味噌は赤ですか? 白でしょうか」

「赤ですね。けれど、もしお好みがあれば」

「赤で大丈夫です。先生の味に、合わせます」


 自分でも、口にしてからどきりとした。
 “合わせます”――まるで、夫婦のような言葉に聞こえてしまって。