惟道の家は、昔ながらの平屋造りだった。
門から玄関までの飛び石には白砂が敷かれ、庭先には控えめな笹竹と紫陽花の鉢が並んでいる。
「――ようこそ」
玄関の戸を開けた惟道は、変わらぬ穏やかな声で言った。
彼の着物は薄鼠色、帯も無地で、いつもと変わらない。
けれど、今日はどこか、それが“家主”の風格を纏って見えた。
志野子は、静かに礼をして玄関を上がる。
畳の感触が、少し柔らかかった。
「こちらが、“香の間”です」
案内された部屋は六畳。
窓がひとつあり、日差しが障子越しにやわらかく落ちている。
壁際には香道具の棚、文机、そして薄紅の花の刺繍が入った座布団がひとつ。
(香のにおい……)



