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その日の昼下がり、志野子が仕立てた布を風に干していると、門の外から声がした。
「……ごめんくださいな。志野子、おるかえ?」
まさか、と思った。
その声を、志野子は知っていた。
――母の声だった。
女中を置いて、華族としての誇りにしがみついていた彼女。
『こんな暮らし耐えられないわ……!』
そう言って家を出ていったあの日から、母は志野子に一通の手紙も寄こさなかった。
それが今になって、なぜ。
「お母さま……?」
門を開けると、かつての艶やかな和装に身を包んだ母が、まるで何事もなかったような顔で立っていた。
「まあまあ、元気そうで何より」
そう言って笑ったその顔に、志野子は言葉を失った。
母の口から出た第一声は、信じられないものだった。
「志野子、良縁があるの。あんたに、もう一度“家”を持ってもらえる話よ」



