春は、香りとともに。




 その晩。惟道が言った。
 

「……あなたの香りは、もう“他人”のものではない」

「はい。わたしの香りは、わたしだけのものです」
 

 ふたりの言葉が、夜の帳の中で、静かに交わった。

 それは、恋の告白でも、契りでもなかった。
 けれど、それ以上に確かな“香の誓い”のようだった。