春は、香りとともに。




 「はい。……見ましょう。来年も、その次の年も」


 その“約束”だけで、胸がいっぱいになる。

 午後になり、私は部屋の机に向かって筆を取った。

 今後の仕事について、考えていた。

 もともと、家元としての仕事は減らしていたが、
 志野子さんと生きるなら、もう少し生活に寄り添う形に整えていく必要がある。


 「……ねえ先生」


 彼女が後ろから、そっと近づいてくる。


 「わたし、仕立ての仕事を本格的にしてみようと思います」


 彼女の声には、凛とした決意があった。
 私は筆を置いて、まっすぐに彼女を見た。


 「……背中を押してくれて、ありがとう。
  私も、あなたに恥じぬよう、生きていきます」



 その夜。
 ふたりで縁側に座り、湯呑を手に話をする。

 彼女は白い羽織を羽織っていた。
 その姿が、柔らかな月の光に照らされて、まるで夢のようだった。


 「先生……」

 「はい」

 「ずっと、こうして隣にいてくれますか?」

 「……もちろんです。どんなに老いても、あなたの手を離さないと、誓います」


 彼女がそっと、私の肩に頭を寄せてきた。

 夜風が少しだけ吹いて、桜の花びらが舞った。