春は、香りとともに。




 【惟道side :やわらかな朝のあとで】
 

 朝食のあと、食器を洗う音が小さく響いていた。

 志野子さんは、洗い物を手早く済ませると、台拭きを丁寧に絞りながら振り返る。


「先生、拭き物、お願いしてもいいですか?」

 「もちろんです」


 布巾を受け取りながら、ふたりで並んで流し台に立つ。
 まるで長年の夫婦のように自然な動きだった。

 昨夜、彼女を抱いたとき、私はこの人のすべてを守りたいと、心の底から思った。

 今日、朝が来て彼女が当たり前のように隣にいてくれることが、こんなにも温かいとは。

 ふと、彼女が食器棚に手を伸ばしたとき、袖口がふわりと揺れた。
 その白く細い手首に、昨夜私が口づけた場所を思い出し、鼓動が跳ねる。