春は、香りとともに。




 ***
 

 結い終えたあと、惟道先生がそっと鏡を覗き込んで言った。


 「……きれいです」

 「先生が、きれいにしてくださったからです」


 私がそう返すと、彼は小さく笑いながら、ふいに背中から腕をまわしてきた。


 「こんな朝を、毎日迎えられたらいいですね」

 「……はい、私もそう思っています」


 身体を預けるように、そっと背中に寄りかかると、
 彼の鼓動がゆっくりと胸に伝わってきた。

 この朝が終わっても。
 季節が巡っても。
 春が過ぎ、夏が来て、秋が訪れても――

 私たちは、こうして生きていくのだと。
 笑って、泣いて、少しずつ年を重ねていくのだと。

 そのはじまりの朝に、私は今、立っている。