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ふたり並んで、簡単な朝ごはん……というか昼ごはんを作る。
昨夜買ってあった豆腐とわかめ、残っていた葱を刻む私の隣で、先生が卵を割る手つきは少しぎこちないけれど、やさしかった。
「志野子さんは、甘めの味が好きですか?」
「はい。でも、先生のお味も知りたいです」
「……それは少し照れますね」
そんな他愛ない会話が、どれだけ愛おしいものか。
味噌汁が煮える音、土鍋のご飯がふつふつと湯気を立てる香り。
すべてが、ふたりだけの朝をつくってくれていた。
簡素だけれど、やさしい朝ごはんができあがった。
湯気の立つ味噌汁に、炊きたてのご飯、焼いた鮭と漬物。
「旅館みたいなごはんですね」
その言葉に私は思わず吹き出してしまって「それなら、女将にならなくては」と返す。
すると、彼が静かに箸を置いて私の手を取った。
「じゃあ、私は……ここの主になってもいいですか?」
……心臓が跳ねた。
彼の手の温かさは、昨夜よりもさらに近くて、深い。
指先を重ねるだけで、どれほど想いが伝わるのかを私は初めて知った。
食事を終えた後、私は小さな鏡を前に髪を整えようとした。
髪を結うという行為は、娘時代から変わらない習慣だ。前はセツがやってくれていたけど……
「……志野子さん。よければ、私が結いましょうか」
「惟道さんが……?」
鏡越しに目が合う。
少し照れたような笑みの中に、真剣な眼差しがあった。
「結ってみたいと思ったんです。あなたの髪を、ちゃんと見てみたい」
私は小さく息を吸って、頷いた。
椅子に腰を掛け、先生の指先が私の髪に触れる。
まだ少し不慣れな動き。けれど、丁寧で……とても、やさしい。
「髪……長いですね」
「はい。……昔から、父が切らせてくれなかったんです」
「とても、似合っています」
その言葉が、なぜだか、胸に深く刺さった。こんなふうに、私の髪に触れてくれる人がいる。
この日常が、これからも続いていくのかもしれないと思った瞬間、私は目頭が熱くなるのを感じた。



