春は、香りとともに。




 そう思えるだけで、十分に胸は満たされていた。

 静けさが戻った布団の中、ふたりは額を寄せ合いながら、目を閉じる。
 呼吸が重なり、心音がふたりの距離を測る。


 「志野子さん」


 再び呼ばれる名に、志野子は瞼をうっすら持ち上げた。


 「……はい」

 「――好きです」


 それはあまりに小さく、けれど確かな告白だった。


 「……わたしも、お慕いしています……」


 彼女は、ほんの少し身体を寄せた。
 惟道の胸元に、そっと額を預ける。

 外では、鶯が一声だけ、囀った。
 夜明けが、近づいていた。