春は、香りとともに。





 「見に行きましょう。来年の春も、再来年も――ずっと、先生と」


 惟道は、返事の代わりにそっと彼女の手に口づけた。
 その唇の感触は、温かく、慎ましく、やさしかった。

 ふたりの顔の距離は、もうすぐ触れ合いそうなほど近くなっていた。
 けれど、惟道はそれ以上近づこうとはしなかった。

 志野子はそれを、理解していた。
 これは、惟道なりの“けじめ”なのだ。


 (……いつか、その時が来たら)