春は、香りとともに。




 「……それは、わたしも同じです」

 「……え?」

 「あなたが、こんなにも傍にいるのに。目を閉じてしまうなんて、惜しいと思ってしまう」


 まるで、どこかの詩のような台詞だったけれど、
 その声音はあくまで静かで――けれど、心の奥にまっすぐ届いた。

 しばらく、ふたりは見つめ合っていた。
 そのうち、惟道がわずかに身体を寄せ、布団の中で身を起こす。




 「……志野子さん」

 「……はい」

 「――失礼、します」


 彼は、そっと手を伸ばして、志野子の髪を優しくかきあげた。
 そして、額に……ふわりと唇を落とす。

 それは、キスというには淡くて、
 けれど、ただの接触以上に――あたたかくて。

 志野子は、身体中の神経が震えるのを感じていた。