春は、香りとともに。





「……起きていたのですね」
 

 惟道の声が、暗闇の中で静かに響いた。

 志野子は驚いて、すぐに手を引こうとしたが、その手を惟道がそっと包んだ。


 「……すみません。起こしてしまって」

 「いえ……わたしの方こそ」


 ふたりは声をひそめながら、微笑み合った。
 布団の中、わずか数十センチの距離。
 それでも、胸の鼓動はどんどん高鳴っていく。


 「……眠れないのですか?」


 惟道が訊ねると、志野子は少しだけうなずいた。


 「先生が、近くにいるのに……眠るなんて、もったいないと思ってしまって」


 その言葉に、惟道は驚いたように目を見開く。
 けれどすぐに、ふわりと目元がほどけた。