*** 夜。長屋に戻り、簡素な夕食を終えたあと。 志野子はふと、古道具屋で買ってきた絵本を手に取った。 「……少し、読みましょうか。先生の代わりに」 「よろしいのですか?」 志野子は頷き、柔らかな声で読み始める。 それは昔話のようでいて、どこか懐かしい、春の森の物語だった。 惟道は静かに目を閉じて、その声に耳を傾ける。 (……なんて、あたたかい声なんだ) 過去の寂しさが、少しずつほぐれていくのを感じていた。 まるで、あの夜の家の灯りのように、志野子の声が胸を照らしていた。