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帰り道。
いつもの長屋に戻る前、志野子はふと、セツの買い物姿を見つけた。
小さな籠を抱えて、八百屋の主人と、にこにこ笑いながら言葉を交わしている。
「あら、それじゃあ一束おまけしてくださいます?」
「セツさんには弱いなァ、ほんとに」
かつての男爵家では、ありえない光景だった。
けれど、志野子はその背を見ながら、ふと、胸が温かくなるのを感じた。
「ありがとう、セツ」
志野子は、誰に聞かれるでもなく、そう呟いた。
――あなたが、ここにいてくれるから、
私は今、花のように生きていられるのだと思うのだ。



