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縁側の木の床板に、ふたり並んで腰かける。
風が止んで、庭先の若草が揺れる音だけが聞こえた。
「先生……惟道さん」
名前を呼ぶと、彼の指がぴくりと動いた。
「……わたし、あの人のことを、昔少しだけ、憧れていた時期がありました。でも、いまはもう――」
「それ以上、聞きたくありません」
志野子の言葉を遮るように、惟道がゆっくりと声を落とした。
「……なぜでしょう。あなたの過去すら、いまは嫉妬してしまいそうなのです。おかしいでしょう?」
自嘲気味に笑った惟道の手が、そっと自分の膝の上に置かれる。
そして、そのまま――恐る恐る、志野子の手の近くへ、滑らせるように伸びてきた。
指先が、触れた。
それだけのことなのに、志野子は全身がびくりと震えた。
「……あなたの手を、これから何度でも取りたいと願ってしまう自分が、怖いほどです」
惟道の言葉は、決して甘くはなかった。
けれど、その静けさの裏にある熱は、誰よりもまっすぐで、まるで灯のようだった。



