部屋に戻って衣桁の前に立ち、志野子は迷った。 普段は落ち着いた紺か鼠の着物だが、今日ばかりは、少し明るい色が着たくなる。 (お祝いされるわけじゃないのに……なにを、期待しているんだろう) そう自分に問いながらも、手に取ったのは、春霞のような淡い藤色の着物だった。 衿元には、花模様の半襟を合わせた。 ごくささやかな、誕生日のよそおいだった。