春は、香りとともに。




 「この手が、私を変えてくれました」


 その言葉に、志野子の目から涙があふれそうになる。


 「……わたしなんて、小さな存在ですのに……」

 「その“小さな存在”が、私にはどれほど大きな光か――あなたには、まだ分かっていないのかもしれませんね」


 握られた手のぬくもりが、志野子の胸にしっかりと届いた。

 ふたりは、しばらく無言で手をつないでいた。
 過去の痛みも、未来の不安も、ただ今だけは脇に置いて――
 静かな春の夜の中、心と心が、ひと筋に繋がっていた。