春は、香りとともに。




 「これ、あの……たいしたものではないのですが……」


 惟道は立ち止まり、彼女の目をじっと見つめた。


 「私に?」

 「はい。あの……手が、冷たそうだったから……」


 彼はゆっくり受け取り、包みを開いた。
 そこに現れたのは、綿混の、手縫いの黒い手袋。

 少し大きめの指先に、細やかな縫い目。
 志野子の手仕事の丁寧さが、手袋のひと針ひと針に込められていた。


 「……これは、とても、嬉しいです」


 惟道は言った。


 「志野子さん、私のために……ありがとう」


 そのまなざしは、まっすぐで、どこか照れているようでもあった。