春は、香りとともに。





 ***
 

 翌日。

 志野子は、完成した手袋を小さな包みにして机の上に置いた。
 けれど、朝も昼も、惟道に手渡すことができなかった。

 話しかけるタイミングを見つけようとするたびに、心がすくむ。
 「これ、使ってください」――たったその一言が、なぜこんなに難しいのだろう。


 (こんなことで、わたし……)


 自分に呆れそうになる。
 でも、贈り物とは、ただ“物を渡す”ことではなく、
 “気持ちを託す”ことなのだと、志野子はようやく気づいていた。

 その夜、遅くまで本を読んでいた惟道が、ふと部屋に戻ろうと立ち上がる。


 「……せ、先生」


 声をかけたのは、志野子の方だった。
 彼女は、少しうつむき加減で、両手に小さな包みを抱えていた。