春は、香りとともに。




  ***
 

 翌朝、志野子は目を覚ました。
 体の節々が重たい。けれど、心はふわりと軽かった。

 台所に立とうとして、惟道に止められる。


 「今日は、私が作ります。
  簡単なもので申し訳ありませんが」

 「えっ……あの、でも……」

 「寝てなさい。たまには、私に甘えてもらわないと」


 その言葉に、志野子は思わず笑ってしまった。


 (ああ……先生も、変わってきている)


 これまで決して“甘えさせる”ことを言わなかった人が、今自分に“頼らせよう”としている――。

 それは、きっと志野子が彼にとって
 ただの同居人、ではなくなった証だった。