春は、香りとともに。




 胸の奥からせり上がる涙が、またひと筋、こぼれた。

 志野子は、そっと瞳を伏せて、震える声で続けた。


 「だから。……もう少しだけ……甘えても、いいですか?」


 その問いかけは、まるで子どものようだった。
 強がりを脱ぎ捨てた、柔らかな“本心”。

 惟道は、ゆっくりと彼女の肩を抱き寄せた。


 「……甘えてくれることが、私の救いです」


 その声は、かすれていた。
 けれど、どこまでも真っ直ぐで、まるで誓いのようだった。