そう、思ったのだ。
惟道の手を、なるべく煩わせたくなかった。
あの人は、静かな時間を愛している。
香に集中している姿を見るたび、胸が熱くなる。
邪魔してはいけない。甘えすぎてはいけない。
――けれどそれは、優しさではなく、どこか“自己否定”に近いものだったのかもしれない。
日が傾くにつれて、体のだるさが増していく。
椅子に座ったまま、いつの間にか意識が遠のきそうになった。
「……志野子さん?」
声がした気がした。
でも、返事ができない。
重たい布のような眠気に飲み込まれて――
ふっと体が前へ倒れかけた、その瞬間。
「……っ、志野子さん!」
誰かが抱きとめた。
強くも優しい腕のなか。
温かくて、少し震えていた。



