春は、香りとともに。



  夕食を終え、ふたりは縁側に腰を下ろしていた。
 空には星がちらほらと浮かび、まだ寒さを含んだ夜風が襟元をくすぐる。

 志野子は、ふいにそっと口を開いた。


「先生……」

「はい」

「わたし、これからも、ここにいてもよろしいのでしょうか」


 その言葉に、惟道が不思議そうな顔を向けた。


「それは、どういう意味ですか?」

「お針子として、人の役に立つこともできて……
 先生と暮らすことで、自分を見つめ直せて……。
 でも……いつか、迷惑になってしまうのではないかと、ふと怖くなることがあるのです」


 自分の存在が、誰かにとって“負担”になること。
 それは、かつて婚家で経験した感情でもあった。

 惟道は少しだけ考えるような顔をしたあと、そっと言った。