春は、香りとともに。




 「まだ、はっきりとは言えません。
でも、君といる未来を、できるだけ長く、大切にしたいと思っています」


 志野子は、胸がじんわりと熱くなるのを感じながら、そっと微笑む。


 「私も……先生といる時間が、好きです。とても」

 「……ありがとうございます」


 ほんの数秒の沈黙。
 そのあと、惟道はゆっくりと、自分の右手を少しだけ動かした。

 彼女の左手に、そっと触れる。

 指と指が、重なる。

 それだけのことが、心臓の奥を激しく打ちつけた。


 「これは、“告白”でも、“約束”でもないかもしれません。
けれど、君が望む限り……この手を、そばに置いていたいと思っています」


 志野子は、胸がいっぱいで言葉が出せなかった。
 ただ、小さく頷いた。

 手のひらに重なる温度。
 それは、すべてを語らずとも、伝わるものだった。