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昼過ぎ。
志野子が糸を巻き直していたとき、惟道が襖の向こうから声をかけた。
「志野子さん、少し……お時間、いただけますか?」
思わず息が詰まりそうになったが、志野子は膝の上の布をそっと畳み、うなずいた。
「……はい」
ふたりは縁側に並んで腰を下ろした。
風に揺れる簾の向こうでは、遠くの竹林がざわめいていた。
ふたりの会話のあと、惟道は部屋に戻り、志野子は台所に立った。
炊き込みご飯の湯気がゆらゆらと立ちのぼり、それをぼんやり見つめながら、胸の奥で何度も同じ言葉が回っていた。
――『君とだから、もう一度、生きてみようと思えた』
「これは、過去ではなく――“今”の君に芽生えたもの」
(あの人は、私をちゃんと“私”として見てくださっている)



