春は、香りとともに。




『あなたの人生に、私はもういないのよ』

 病室で、文子が最後に口にした言葉が、今も耳の奥でこだまする。

 『勝手に、先に行ってしまってごめんなさい……あなたは、私以外の人と、幸せになって……』

 あのとき惟道は、何も返せなかった。
 口を開こうとしても、喉がひどく乾いて、声が出なかった。

 それが、最期だった。