第15話「この恋に、ルールは必要ですか?」
【大学講堂・卒業式当日・午前】
華やかなガウンと袴姿の学生たちが、ぞろぞろと講堂に集まってくる。
どこか誇らしげで、でもほんの少しだけ切ない、春の空気。
茜は深紅の袴に身を包み、正門前で深呼吸していた。
白い息がふわりと空に溶ける。
茜(心の声)
(4年前、この門をくぐった日には想像もしていなかった。
誰かを好きになること、そして“自分の道”を選び抜くことが、
こんなに尊いってことを)
そこへ、少し遠くから見覚えのあるスーツ姿。
朝倉悠真が、花束を抱えて歩いてくる。
悠真
「卒業、おめでとう」
茜
「……先輩こそ。ちゃんと、会いに来てくれると思ってました」
悠真
「だって、最後まで並んで見送りたいから」
【大学講堂・卒業式本番】
卒業証書の授与。
茜の名前が呼ばれ、壇上へと歩み出る。
講堂の隅、ひときわ誇らしげに見つめる悠真の姿。
茜(心の声)
(私は、法を学んだ。
けれど、それ以上にこの場所で“生きるルール”を学んだ。
“誰かを信じること”も、“信じてもらう強さ”も)
【講堂前の桜並木・卒業式後】
桜がちらほらと開き始めた並木道。
袴姿の茜と、スーツ姿の悠真が並んで歩く。
時折吹く春風が、ふたりの会話をやさしく包む。
悠真
「なんかさ……俺たち、ずいぶん大人になった気がするな」
茜
「4年間、いろんなことがありましたからね。
法律の条文よりも、“人の気持ち”を理解するほうが何倍も難しいって、痛感しました」
悠真
「それ、めちゃくちゃ共感する」
茜
「でも——難しくても、私はこれからも、“正しさ”と“優しさ”の間を探していたい。
自分の答えで、誰かを守れる人になりたいです」
悠真
「きっとなれる。
君はもう、その歩き方を知ってるから」
【キャンパス内のベンチ・午後】
桜並木の外れ、ふたりがよく一緒に座っていたベンチ。
今日も変わらずそこに腰を下ろす。
悠真
「大学生活の中で、一番大事だったのってなんだと思う?」
茜
「……難しいですね。
でも、“誰かと誠実に向き合う時間”だったかも。
勉強も恋も、誤魔化せないから、何度も悩んだし、立ち止まった」
悠真
「俺も、そんな気がする。
自分勝手な“正しさ”じゃ、誰も救えないんだってこと、
君に出会って学んだ」
少しだけ風が吹き、茜の髪が揺れる。
その隙間から、彼女がまっすぐな瞳で言葉をこぼす。
茜
「……先輩。
私たち、ここからきっと、もっと忙しくなると思います。
離れる時間も、すれ違う日も、たくさんあるはずです」
悠真
「うん、わかってる。
“簡単じゃない”っていうのが、現実だよな」
茜
「それでも私は、あなたと“ルールじゃない何か”で繋がっていたい。
束縛や条件じゃなくて——
“信じ合う意志”だけで続いていける関係でいたい」
悠真
「……その答え、俺も同じだよ」
ふたりはゆっくり手を重ねる。
桜の花びらが一枚、ふわりと舞って肩に落ちる。
【数週間後・東京・大学院の春のキャンパス】
春。
新しいキャンパス、新しいスーツ姿の学生たちの中で、
茜はひとり、真新しい学生証を手に構内を歩く。
スマホに一通の通知。
朝倉悠真:
《今日は仕事早く終わる。そっちに向かう》
茜(心の声)
(“遠くても、大丈夫”。
あの人が、今も“会いに来てくれる”限り——
この恋は、ちゃんと続いていける)
【東京の小さな橋の上・夕方】
橋の上。
東京の川沿い。
茜と悠真が久しぶりに顔を合わせる。
悠真
「やっと会えたな。やっぱり、顔見ると安心する」
茜
「私も。メッセージだけじゃ伝わらないこと、たくさんありますもんね」
悠真
「だから今日、ちゃんと伝えたくて来た」
茜
「……?」
悠真
「“好きです”って、ちゃんと口で言いたくて」
茜
「……もう。ずるいなあ」
茜の目尻が少しうるみ、ふたりは微笑み合う。
悠真
「この恋に、ルールは必要ですか?」
茜
「……必要ないです。
必要なのは、ただ“信じること”と、“会いに行く勇気”。
それが、ふたりのルールです」
春の風が橋を渡っていく。
その中で、ふたりは肩を寄せて、これからの未来へ歩き出す。
【大学講堂・卒業式当日・午前】
華やかなガウンと袴姿の学生たちが、ぞろぞろと講堂に集まってくる。
どこか誇らしげで、でもほんの少しだけ切ない、春の空気。
茜は深紅の袴に身を包み、正門前で深呼吸していた。
白い息がふわりと空に溶ける。
茜(心の声)
(4年前、この門をくぐった日には想像もしていなかった。
誰かを好きになること、そして“自分の道”を選び抜くことが、
こんなに尊いってことを)
そこへ、少し遠くから見覚えのあるスーツ姿。
朝倉悠真が、花束を抱えて歩いてくる。
悠真
「卒業、おめでとう」
茜
「……先輩こそ。ちゃんと、会いに来てくれると思ってました」
悠真
「だって、最後まで並んで見送りたいから」
【大学講堂・卒業式本番】
卒業証書の授与。
茜の名前が呼ばれ、壇上へと歩み出る。
講堂の隅、ひときわ誇らしげに見つめる悠真の姿。
茜(心の声)
(私は、法を学んだ。
けれど、それ以上にこの場所で“生きるルール”を学んだ。
“誰かを信じること”も、“信じてもらう強さ”も)
【講堂前の桜並木・卒業式後】
桜がちらほらと開き始めた並木道。
袴姿の茜と、スーツ姿の悠真が並んで歩く。
時折吹く春風が、ふたりの会話をやさしく包む。
悠真
「なんかさ……俺たち、ずいぶん大人になった気がするな」
茜
「4年間、いろんなことがありましたからね。
法律の条文よりも、“人の気持ち”を理解するほうが何倍も難しいって、痛感しました」
悠真
「それ、めちゃくちゃ共感する」
茜
「でも——難しくても、私はこれからも、“正しさ”と“優しさ”の間を探していたい。
自分の答えで、誰かを守れる人になりたいです」
悠真
「きっとなれる。
君はもう、その歩き方を知ってるから」
【キャンパス内のベンチ・午後】
桜並木の外れ、ふたりがよく一緒に座っていたベンチ。
今日も変わらずそこに腰を下ろす。
悠真
「大学生活の中で、一番大事だったのってなんだと思う?」
茜
「……難しいですね。
でも、“誰かと誠実に向き合う時間”だったかも。
勉強も恋も、誤魔化せないから、何度も悩んだし、立ち止まった」
悠真
「俺も、そんな気がする。
自分勝手な“正しさ”じゃ、誰も救えないんだってこと、
君に出会って学んだ」
少しだけ風が吹き、茜の髪が揺れる。
その隙間から、彼女がまっすぐな瞳で言葉をこぼす。
茜
「……先輩。
私たち、ここからきっと、もっと忙しくなると思います。
離れる時間も、すれ違う日も、たくさんあるはずです」
悠真
「うん、わかってる。
“簡単じゃない”っていうのが、現実だよな」
茜
「それでも私は、あなたと“ルールじゃない何か”で繋がっていたい。
束縛や条件じゃなくて——
“信じ合う意志”だけで続いていける関係でいたい」
悠真
「……その答え、俺も同じだよ」
ふたりはゆっくり手を重ねる。
桜の花びらが一枚、ふわりと舞って肩に落ちる。
【数週間後・東京・大学院の春のキャンパス】
春。
新しいキャンパス、新しいスーツ姿の学生たちの中で、
茜はひとり、真新しい学生証を手に構内を歩く。
スマホに一通の通知。
朝倉悠真:
《今日は仕事早く終わる。そっちに向かう》
茜(心の声)
(“遠くても、大丈夫”。
あの人が、今も“会いに来てくれる”限り——
この恋は、ちゃんと続いていける)
【東京の小さな橋の上・夕方】
橋の上。
東京の川沿い。
茜と悠真が久しぶりに顔を合わせる。
悠真
「やっと会えたな。やっぱり、顔見ると安心する」
茜
「私も。メッセージだけじゃ伝わらないこと、たくさんありますもんね」
悠真
「だから今日、ちゃんと伝えたくて来た」
茜
「……?」
悠真
「“好きです”って、ちゃんと口で言いたくて」
茜
「……もう。ずるいなあ」
茜の目尻が少しうるみ、ふたりは微笑み合う。
悠真
「この恋に、ルールは必要ですか?」
茜
「……必要ないです。
必要なのは、ただ“信じること”と、“会いに行く勇気”。
それが、ふたりのルールです」
春の風が橋を渡っていく。
その中で、ふたりは肩を寄せて、これからの未来へ歩き出す。



