第14話「卒業までの時間、そして約束」
【大学キャンパス・12月初旬・午後3時すぎ】
木の葉が舞い散る季節。
構内には卒論提出や進路決定のプレッシャーが漂い、学生たちの足取りもどこかせわしない。
茜は法学部の掲示板の前で足を止める。
推薦枠の就職者一覧の紙、その隣には大学院合格者の速報。
見つめる視線の奥に、覚悟と不安が入り混じる。
茜(心の声)
(みんなそれぞれ、進む場所を見つけていく。
じゃあ、私は……?)
【法学部自習室・夕方】
静かな空間。茜は卒論の修正に集中している。
ページの隅に書き込まれた赤ペンのコメントを読みながら、目元を細める。
悠真(声)
「なあ、少しだけ休憩しない?」
斜め後ろの席にいた悠真が、肩越しに笑いかける。
彼の指先には、缶コーヒーが2本。
茜
「……ありがとうございます。でも、もうちょっとだけで終わるので」
悠真
「ほんとに頑張り屋さんだな」
茜
「追い詰められてるだけですよ。
院の準備も、卒論も、心がぎゅうってなってます」
悠真は黙って、彼女の前に缶コーヒーをそっと置いた。
悠真
「その“ぎゅう”ってしてる心、少しだけ俺に預けてくれてもいいんだけどな」
茜
「……ずるいです、そういうこと言うの」
【大学中庭・夕方・キャンドルナイトイベント】
12月の恒例イベント、キャンドルナイト。
中庭に並ぶ無数の灯りが、寒空の下でやさしく揺れている。
学生たちが静かに歩き、語り合い、写真を撮る。
茜と悠真は、キャンドルのそばのベンチに座っている。
ふたりの影が、光の粒に包まれていた。
悠真
「来年の春、俺は東京配属が濃厚になってる」
茜
「……それって」
悠真
「茜が院に進む街。だから、俺もそこを希望した。
会社の制度的には、まだ確定じゃないけど、ちゃんと伝えてある」
茜
「……ありがとう。ほんとうに、嬉しい。
でも、同時に少し怖いです」
悠真
「怖い?」
茜
「先輩が、自分の夢とか未来を曲げてまで、私を“優先してくれてる”気がして。
そう思うと……私が自分の夢を叶えることすら、迷ってしまいそうになる」
悠真
「……それ、逆だよ。
君が“夢を選んだ”から、俺もちゃんと未来を考えるようになった。
君がいなかったら、俺、ただの“法学部の優等生”で終わってたと思う」
茜
「……先輩」
茜は自分の胸元をぎゅっと押さえる。
そしてゆっくりと、手を差し出す。
茜
「この先どうなるかは、誰にもわからないけど——
“ちゃんと信じる”って、約束してください。
私も、先輩の未来を信じるから」
悠真
「……約束するよ。
距離があっても、時間がなくても、
それを理由に、君を疑ったりしない。
それが、俺たちの“ルール”だろ?」
茜
「……はい、“この恋にルールは必要ですか?”って聞かれたら——
“信じることだけが、ルールです”って、答えたいです」
ふたりの手がそっと重なり、
まわりのキャンドルが、風に揺れながらその誓いを照らす。
【大学構内・年末・卒論提出日】
卒論提出最終日。
法学部棟には長い列。
茜はプリントアウトした用紙を胸に抱え、深呼吸する。
提出箱に原稿を入れた瞬間、目が潤む。
茜(心の声)
(“自分で選んだ道”を、ここまで歩いてこれた。
迷って、逃げそうになったけど……私は私の足で、立ててる)
【大学正門・年明け・夕暮れ】
ゆるやかな冬の夕日が大学の門を照らす。
そこに、悠真が立っていた。
茜は歩いていき、彼の隣に立つ。
悠真
「あと数か月で、卒業か……」
茜
「寂しいですか?」
悠真
「うん。でも、それ以上に“ありがとう”って思ってる。
この場所で君に出会えたこと、全部が宝物みたいだから」
茜
「私もです。
この4年間は、きっと一生の支えになります」
ふたりは静かに見つめ合い、やわらかく笑い合う。
悠真
「じゃあ、最後に、もうひとつだけ誓おうか」
茜
「誓い?」
悠真
「社会に出ても、離れても、
“ちゃんと、会いに行く恋人でいよう”って。
どんなに忙しくても、顔を見て伝える努力は忘れない——そういう恋でいたい」
茜
「……はい。
それなら、きっと私は何度でも、信じられます。
どこにいても、あなたが私の“隣”にいること」
【大学キャンパス・12月初旬・午後3時すぎ】
木の葉が舞い散る季節。
構内には卒論提出や進路決定のプレッシャーが漂い、学生たちの足取りもどこかせわしない。
茜は法学部の掲示板の前で足を止める。
推薦枠の就職者一覧の紙、その隣には大学院合格者の速報。
見つめる視線の奥に、覚悟と不安が入り混じる。
茜(心の声)
(みんなそれぞれ、進む場所を見つけていく。
じゃあ、私は……?)
【法学部自習室・夕方】
静かな空間。茜は卒論の修正に集中している。
ページの隅に書き込まれた赤ペンのコメントを読みながら、目元を細める。
悠真(声)
「なあ、少しだけ休憩しない?」
斜め後ろの席にいた悠真が、肩越しに笑いかける。
彼の指先には、缶コーヒーが2本。
茜
「……ありがとうございます。でも、もうちょっとだけで終わるので」
悠真
「ほんとに頑張り屋さんだな」
茜
「追い詰められてるだけですよ。
院の準備も、卒論も、心がぎゅうってなってます」
悠真は黙って、彼女の前に缶コーヒーをそっと置いた。
悠真
「その“ぎゅう”ってしてる心、少しだけ俺に預けてくれてもいいんだけどな」
茜
「……ずるいです、そういうこと言うの」
【大学中庭・夕方・キャンドルナイトイベント】
12月の恒例イベント、キャンドルナイト。
中庭に並ぶ無数の灯りが、寒空の下でやさしく揺れている。
学生たちが静かに歩き、語り合い、写真を撮る。
茜と悠真は、キャンドルのそばのベンチに座っている。
ふたりの影が、光の粒に包まれていた。
悠真
「来年の春、俺は東京配属が濃厚になってる」
茜
「……それって」
悠真
「茜が院に進む街。だから、俺もそこを希望した。
会社の制度的には、まだ確定じゃないけど、ちゃんと伝えてある」
茜
「……ありがとう。ほんとうに、嬉しい。
でも、同時に少し怖いです」
悠真
「怖い?」
茜
「先輩が、自分の夢とか未来を曲げてまで、私を“優先してくれてる”気がして。
そう思うと……私が自分の夢を叶えることすら、迷ってしまいそうになる」
悠真
「……それ、逆だよ。
君が“夢を選んだ”から、俺もちゃんと未来を考えるようになった。
君がいなかったら、俺、ただの“法学部の優等生”で終わってたと思う」
茜
「……先輩」
茜は自分の胸元をぎゅっと押さえる。
そしてゆっくりと、手を差し出す。
茜
「この先どうなるかは、誰にもわからないけど——
“ちゃんと信じる”って、約束してください。
私も、先輩の未来を信じるから」
悠真
「……約束するよ。
距離があっても、時間がなくても、
それを理由に、君を疑ったりしない。
それが、俺たちの“ルール”だろ?」
茜
「……はい、“この恋にルールは必要ですか?”って聞かれたら——
“信じることだけが、ルールです”って、答えたいです」
ふたりの手がそっと重なり、
まわりのキャンドルが、風に揺れながらその誓いを照らす。
【大学構内・年末・卒論提出日】
卒論提出最終日。
法学部棟には長い列。
茜はプリントアウトした用紙を胸に抱え、深呼吸する。
提出箱に原稿を入れた瞬間、目が潤む。
茜(心の声)
(“自分で選んだ道”を、ここまで歩いてこれた。
迷って、逃げそうになったけど……私は私の足で、立ててる)
【大学正門・年明け・夕暮れ】
ゆるやかな冬の夕日が大学の門を照らす。
そこに、悠真が立っていた。
茜は歩いていき、彼の隣に立つ。
悠真
「あと数か月で、卒業か……」
茜
「寂しいですか?」
悠真
「うん。でも、それ以上に“ありがとう”って思ってる。
この場所で君に出会えたこと、全部が宝物みたいだから」
茜
「私もです。
この4年間は、きっと一生の支えになります」
ふたりは静かに見つめ合い、やわらかく笑い合う。
悠真
「じゃあ、最後に、もうひとつだけ誓おうか」
茜
「誓い?」
悠真
「社会に出ても、離れても、
“ちゃんと、会いに行く恋人でいよう”って。
どんなに忙しくても、顔を見て伝える努力は忘れない——そういう恋でいたい」
茜
「……はい。
それなら、きっと私は何度でも、信じられます。
どこにいても、あなたが私の“隣”にいること」



