第13話「進路と、選べなかった答え」
【大学キャリアセンター前・11月初旬・午後】
冬の気配が近づくキャンパス。
廊下には就職ガイダンスやインターン募集のポスターが並び、学生たちが静かに緊張を帯びている。
茜はキャリアセンターの前で立ち止まり、ため息をつく。
茜(心の声)
(進学と就職、どちらを選ぶべきか、ずっと迷ってる。
でも……“彼の隣”にいるには、何を選べばいいんだろう)
そこへ、スマホに通知。
朝倉悠真からのメッセージ。
《夜、少しだけ会えない? 相談したいことがある》
茜(心の声)
(……今度は私の番だ。ちゃんと、話さなきゃ)
⸻
【大学近くの喫茶店・その日の夜】
夜7時。
レンガ造りの落ち着いた喫茶店。
窓際の席に座るふたりの間に、少しだけ沈黙が落ちている。
悠真
「……実は、さっき、内定をひとつもらったんだ」
茜
「えっ、本当に? それ、すごい……!」
悠真
「ありがとう。まだ第一志望じゃないけど、ちゃんと“将来が見える場所”だと思った。
ただ……受けようとしてた他の企業、しばらく辞退しようかなって思ってる」
茜
「……なんで、ですか?」
悠真
「君が、東京の院を考えてるから」
茜の手が、ラテのカップから離れる。
悠真
「……そっちに近い配属希望を出せば、一緒にいられる可能性がある。
そう思ったら、自然とそっちを選びたくなってた」
茜
「……」
悠真
「でも、これが“正しい選択”なのかはわからない。
茜と一緒にいるのために、俺が何をすべきなのか、自分でも混乱してる」
【大学の中庭・その翌日・昼休み】
木漏れ日の中庭。
茜はベンチに座り、悠真の言葉を何度も反芻していた。
茜(心の声)
(彼が、自分の進路を私に合わせようとしてる。
でも……私は?)
(本当は、院に進んで研究を深めたい。
でも、彼と違う道を選ぶのが、怖い——)
そのとき、友人の莉奈が通りかかり、隣に腰かける。
莉奈
「ねえ、顔、疲れてるよ。悩んでる?」
茜
「……うん。進路のこと。
あと、悠真先輩とのことも、全部まるごと」
莉奈
「“恋と将来”って、両立させるの、難しいよね。
でも、どっちかを犠牲にするのって……長い目で見たら、もっと辛い気がする」
茜
「……」
莉奈
「茜ってさ、どんな将来を思い描いて大学に来たの?」
茜
「……法律を、“人の味方”として使える仕事に就きたいって思ってた。
家庭裁判所とか、子どもに関わる法律支援とか……」
莉奈
「じゃあ、その気持ち、大事にしてあげなよ。
“恋を理由に夢をやめる”って、たぶん君にも、彼にも苦しいことだと思う」
【大学構内・ゼミ棟・数日後・夕方】
ふたりは、ゼミ後の廊下で向き合っている。
茜は、深く息を吸って、言葉を選びながら口を開く。
茜
「……先輩、私、やっぱり院に行こうと思います。
東京の大学院で、家庭法を専門に学びたい」
悠真
「……そっか」
茜
「私、やっと自分の気持ちに正直になれました。
だから、もう誰かの“ため”に進路を決めるのはやめます。
その代わりに——」
少しだけ、唇を震わせながら。
茜
「“この恋も、自分の意思で続けたい”。
そのために、ちゃんと遠距離でも頑張れる自分になりたい」
悠真
「……ありがとう。
俺、君のそういうところが、やっぱり好きだ」
ふたりは笑い合う。
でも、その笑顔の裏には、まだ小さな不安と覚悟が静かに息を潜めている。
【茜の部屋・その夜・ひとりの時間】
茜は机に向かって、大学院の志望理由書を打っている。
指先は止まらず、表情は穏やかで——でもその瞳の奥はどこか寂しげ。
茜(心の声)
(私が選んだこの道が、
未来の“ふたり”を遠ざけてしまうとしても——)
(それでも、今だけは。彼を信じて、私自身を信じて、歩いていきたい)
【大学キャリアセンター前・11月初旬・午後】
冬の気配が近づくキャンパス。
廊下には就職ガイダンスやインターン募集のポスターが並び、学生たちが静かに緊張を帯びている。
茜はキャリアセンターの前で立ち止まり、ため息をつく。
茜(心の声)
(進学と就職、どちらを選ぶべきか、ずっと迷ってる。
でも……“彼の隣”にいるには、何を選べばいいんだろう)
そこへ、スマホに通知。
朝倉悠真からのメッセージ。
《夜、少しだけ会えない? 相談したいことがある》
茜(心の声)
(……今度は私の番だ。ちゃんと、話さなきゃ)
⸻
【大学近くの喫茶店・その日の夜】
夜7時。
レンガ造りの落ち着いた喫茶店。
窓際の席に座るふたりの間に、少しだけ沈黙が落ちている。
悠真
「……実は、さっき、内定をひとつもらったんだ」
茜
「えっ、本当に? それ、すごい……!」
悠真
「ありがとう。まだ第一志望じゃないけど、ちゃんと“将来が見える場所”だと思った。
ただ……受けようとしてた他の企業、しばらく辞退しようかなって思ってる」
茜
「……なんで、ですか?」
悠真
「君が、東京の院を考えてるから」
茜の手が、ラテのカップから離れる。
悠真
「……そっちに近い配属希望を出せば、一緒にいられる可能性がある。
そう思ったら、自然とそっちを選びたくなってた」
茜
「……」
悠真
「でも、これが“正しい選択”なのかはわからない。
茜と一緒にいるのために、俺が何をすべきなのか、自分でも混乱してる」
【大学の中庭・その翌日・昼休み】
木漏れ日の中庭。
茜はベンチに座り、悠真の言葉を何度も反芻していた。
茜(心の声)
(彼が、自分の進路を私に合わせようとしてる。
でも……私は?)
(本当は、院に進んで研究を深めたい。
でも、彼と違う道を選ぶのが、怖い——)
そのとき、友人の莉奈が通りかかり、隣に腰かける。
莉奈
「ねえ、顔、疲れてるよ。悩んでる?」
茜
「……うん。進路のこと。
あと、悠真先輩とのことも、全部まるごと」
莉奈
「“恋と将来”って、両立させるの、難しいよね。
でも、どっちかを犠牲にするのって……長い目で見たら、もっと辛い気がする」
茜
「……」
莉奈
「茜ってさ、どんな将来を思い描いて大学に来たの?」
茜
「……法律を、“人の味方”として使える仕事に就きたいって思ってた。
家庭裁判所とか、子どもに関わる法律支援とか……」
莉奈
「じゃあ、その気持ち、大事にしてあげなよ。
“恋を理由に夢をやめる”って、たぶん君にも、彼にも苦しいことだと思う」
【大学構内・ゼミ棟・数日後・夕方】
ふたりは、ゼミ後の廊下で向き合っている。
茜は、深く息を吸って、言葉を選びながら口を開く。
茜
「……先輩、私、やっぱり院に行こうと思います。
東京の大学院で、家庭法を専門に学びたい」
悠真
「……そっか」
茜
「私、やっと自分の気持ちに正直になれました。
だから、もう誰かの“ため”に進路を決めるのはやめます。
その代わりに——」
少しだけ、唇を震わせながら。
茜
「“この恋も、自分の意思で続けたい”。
そのために、ちゃんと遠距離でも頑張れる自分になりたい」
悠真
「……ありがとう。
俺、君のそういうところが、やっぱり好きだ」
ふたりは笑い合う。
でも、その笑顔の裏には、まだ小さな不安と覚悟が静かに息を潜めている。
【茜の部屋・その夜・ひとりの時間】
茜は机に向かって、大学院の志望理由書を打っている。
指先は止まらず、表情は穏やかで——でもその瞳の奥はどこか寂しげ。
茜(心の声)
(私が選んだこの道が、
未来の“ふたり”を遠ざけてしまうとしても——)
(それでも、今だけは。彼を信じて、私自身を信じて、歩いていきたい)



