第10話「告白と、まだ言えないこと」
【大学キャンパス・初秋・昼下がり】
長かった夏休みも終わり、大学に日常が戻ってきた。
茜は教室に向かう途中、構内のカフェテラスでひとりコーヒーを飲んでいる。
スマホの画面には、数日前に撮った“古本屋デート”の写真。
そこには、楽しそうに笑う自分と、穏やかな表情の悠真がいた。
茜(心の声)
(あの日から……まだ、“恋人”って言葉は、どちらの口からも出ていないけれど)
(でも、私の中で、もう“誰かを好きになる”ってどういうことなのか、ちゃんとわかってる)
そんなとき、LINEの通知が一つ。送り主は、相馬拓真。
《今度の学祭、遊びに行こうかな。水城がいるなら》
《……彼氏と一緒じゃないなら、だけど》
茜(心の声)
(……まだ、ちゃんと“伝えきれてない”こと、あるんだ)
【法学部ゼミ室・午後】
ゼミのディスカッションを終えて、悠真と茜は並んでプリントを片付けている。
ふとした沈黙のあと、茜が口を開く。
茜
「先輩……」
悠真
「うん?」
茜
「……あの、私……」
言葉が続かない。
悠真は、静かに茜の方を向き、やわらかく目を細める。
悠真
「言いたいことがあるときは、無理に整理しなくていいよ」
茜
「……私、ちゃんと“好き”って、言えてなかったなって。あの日、答えたけど……あれは、返事じゃなくて、“感情”だったから」
悠真
「……」
茜
「今、ちゃんと伝えます。“先輩のことが、好きです”」
真っすぐな言葉。
悠真は少しだけ目を見開いて——そのあと、ゆっくりと微笑む。
「うん。俺も、君が好きだよ。……この気持ちが“日常”になるのが、すごく楽しみなんだ」
【構内の坂道・夕方】
ゼミ後、ふたりで帰り道を歩いている。
蝉の声はもうなく、代わりに虫の音がかすかに響く。
茜
「……こうして並んで歩くのって、なんか前よりも、ずっと“意味がある”って感じますね」
悠真
「気づいた? 俺、たぶん、春のときから“こうなるといいな”って思ってたんだ」
茜
「……それって、ずるいですよ。私は最近やっと気づいたのに」
悠真
「でも、ちゃんと追いついてきてくれたじゃないか」
その言葉に、茜の表情がふっとゆるむ。
そして——
悠真
「そうだ、今度の学祭、一緒に回らないか?」
茜
「え……いいんですか?」
悠真
「もちろん。ちゃんと“隣にいる”って、みんなに見せたいと思ってる」
茜の顔が赤く染まる。
でもその頬は、どこか安心したようにも見えた。
【茜の部屋・夜・その日の夜】
茜はひとり、ベッドの上でノートPCを開いている。
カリキュラム表、学祭のスケジュール、就活セミナーの案内……
ページをめくるたび、現実的な未来がじわじわと近づいてくる。
茜(心の声)
(……きっと、これからもっと忙しくなる。自分の道を決めなきゃいけない)
(でも、あの人はきっと、“並んで立てる道”を見つけてくれる)
ふと、再びLINE通知。
送り主は、相馬拓真。
《やっぱり学祭、行くことにした。少しだけでも、話せるといいな》
茜(心の声)
(私は……まだ、言えてない)
(“もう、あなたのことを好きじゃない”って)
【大学キャンパス・初秋・昼下がり】
長かった夏休みも終わり、大学に日常が戻ってきた。
茜は教室に向かう途中、構内のカフェテラスでひとりコーヒーを飲んでいる。
スマホの画面には、数日前に撮った“古本屋デート”の写真。
そこには、楽しそうに笑う自分と、穏やかな表情の悠真がいた。
茜(心の声)
(あの日から……まだ、“恋人”って言葉は、どちらの口からも出ていないけれど)
(でも、私の中で、もう“誰かを好きになる”ってどういうことなのか、ちゃんとわかってる)
そんなとき、LINEの通知が一つ。送り主は、相馬拓真。
《今度の学祭、遊びに行こうかな。水城がいるなら》
《……彼氏と一緒じゃないなら、だけど》
茜(心の声)
(……まだ、ちゃんと“伝えきれてない”こと、あるんだ)
【法学部ゼミ室・午後】
ゼミのディスカッションを終えて、悠真と茜は並んでプリントを片付けている。
ふとした沈黙のあと、茜が口を開く。
茜
「先輩……」
悠真
「うん?」
茜
「……あの、私……」
言葉が続かない。
悠真は、静かに茜の方を向き、やわらかく目を細める。
悠真
「言いたいことがあるときは、無理に整理しなくていいよ」
茜
「……私、ちゃんと“好き”って、言えてなかったなって。あの日、答えたけど……あれは、返事じゃなくて、“感情”だったから」
悠真
「……」
茜
「今、ちゃんと伝えます。“先輩のことが、好きです”」
真っすぐな言葉。
悠真は少しだけ目を見開いて——そのあと、ゆっくりと微笑む。
「うん。俺も、君が好きだよ。……この気持ちが“日常”になるのが、すごく楽しみなんだ」
【構内の坂道・夕方】
ゼミ後、ふたりで帰り道を歩いている。
蝉の声はもうなく、代わりに虫の音がかすかに響く。
茜
「……こうして並んで歩くのって、なんか前よりも、ずっと“意味がある”って感じますね」
悠真
「気づいた? 俺、たぶん、春のときから“こうなるといいな”って思ってたんだ」
茜
「……それって、ずるいですよ。私は最近やっと気づいたのに」
悠真
「でも、ちゃんと追いついてきてくれたじゃないか」
その言葉に、茜の表情がふっとゆるむ。
そして——
悠真
「そうだ、今度の学祭、一緒に回らないか?」
茜
「え……いいんですか?」
悠真
「もちろん。ちゃんと“隣にいる”って、みんなに見せたいと思ってる」
茜の顔が赤く染まる。
でもその頬は、どこか安心したようにも見えた。
【茜の部屋・夜・その日の夜】
茜はひとり、ベッドの上でノートPCを開いている。
カリキュラム表、学祭のスケジュール、就活セミナーの案内……
ページをめくるたび、現実的な未来がじわじわと近づいてくる。
茜(心の声)
(……きっと、これからもっと忙しくなる。自分の道を決めなきゃいけない)
(でも、あの人はきっと、“並んで立てる道”を見つけてくれる)
ふと、再びLINE通知。
送り主は、相馬拓真。
《やっぱり学祭、行くことにした。少しだけでも、話せるといいな》
茜(心の声)
(私は……まだ、言えてない)
(“もう、あなたのことを好きじゃない”って)



