きらめき夢界ものがたり ~ナナミと四つのカギ~

 足元に広がるのは、透きとおった青。
 次の瞬間、菜々美の体はふわっと水の中へと沈んでいた。

 だけど、不思議と苦しくない。髪がやさしく揺れ、スカートのすそがふわりと広がる。
 水の中なのに、まるで空を泳いでいるような感覚だった。

 「ここは……海の夢界?」

 菜々美がそうつぶやいたとき、どこからか声がした。

 「菜々美!」

 振り返ると、そこには海音がいた。濡れていない制服、でも肩からはイルカのような模様のマントがかかっている。

 「海音くん……!」

 「どうやら、ここは僕の夢ともつながっているみたいだ。来てくれてよかった」

 ふたりはゆっくりと泳ぎながら、ひときわ大きなサンゴ礁のトンネルをくぐる。

 その先にあったのは、真珠のように輝く広場。そして、その中心には、元気のないマーメイドたちが座りこんでいた。

 「こんにちは。どうしたの?」

 菜々美が声をかけると、ひとりのマーメイドが顔を上げた。
 水色の髪に、星のかたちのイヤリング。だけどその目は、どこかうつろだった。

 「わたしたち、歌をわすれてしまったの……。歌えないと、海の光がにごってしまうのに……」

 たしかに、あたりの海はどこかくもっていて、魚たちもゆっくりとしか動いていない。

 「でも、夢の貝に記された歌詞のかけらは、まだどこかにあるはずよ」

 海音がうなずいた。

 「なら、探しに行こう。サンゴの迷宮の中に、歌詞の断片が隠されているかもしれない」

 「歌詞のかけらを集めれば、マーメイドたちは歌を思い出せるかも……!」

 菜々美はマーメイドと目を合わせて、ぎゅっと手を握った。

 「わたし、きっと見つけてくる。だいじょうぶ、まかせて!」

 ふたりは、マーメイドに教えられた「サンゴの迷宮」へと向かった。
 そこは色とりどりのサンゴでできた、道が入り組んだ巨大なラビリンスだった。

 「これ……迷子にならないかな」

 「大丈夫。海の流れを感じれば、出口は見つかるはずだよ。ここは“気持ち”の流れで動くから」

 海音の言葉に勇気づけられ、菜々美は迷宮の中へと進んでいった。

 しばらく歩くと、壁にひとつの貝が張りついていた。
 そっと触れると、ふわりと文字が浮かび上がる。

 「ラララ ひかり こぼれて……」

 「歌詞の一節……! きっと、あと何個か見つけたら全体がつながるはず」

 進むうちに、分かれ道が現れた。
 そのどちらにも、貝が光っている。

 左の道には「ながれる いのち」、右の道には「すいこまれる よる」と書かれている。

 「どっちが、ほんとうの歌詞……?」

 菜々美は立ち止まり、考える。

 「歌で伝えたいことは、きっと前を向く気持ちだよね……なら……」

 菜々美は、左の「ながれる いのち」の道を選んだ。

 すると、サンゴがやさしく光りはじめ、道が自然に広がった。

 「正解だったみたい!」

 道の先で、最後の貝が開き、歌詞の全体が浮かび上がった。

 「ラララ ひかり こぼれて
 ながれる いのち つないで
 わたしは ここで うたう」

 菜々美がそっと歌うと、その声に共鳴するように、海の色がすこしずつ澄んでいく。