きらめき夢界ものがたり ~ナナミと四つのカギ~

 ホールの奥に現れた扉は、まるでレースのカーテンのように透けていて、風が吹くたびにゆらゆら揺れていた。
 その中へ一歩足を踏み入れると、空間はガラリと変わった。

 ここは、まるでガラスのような床と天井に囲まれた、きらきらとしたダンスホール。
 でも、その中心では――

 無数のバレリーナたちが、笑顔を浮かべながら同じ動きをくり返していた。
 くるり、くるり。
 でも、どの動きも少しずつズレていて、音楽と合っていない。

 「まるで……幻みたい……」

 そのとき、菜々美のとなりに、小さな声が聞こえた。

 「気をつけて。ここにいるのは、ほんものの夢じゃないの。
 まちがった夢が、姿をまねてるだけ」

 ふと見ると、そこには青いスカーフをつけた小さな女の子。
 バレリーナの衣装ではなく、菜々美と同じような服を着ていた。

 「わたし、ここで夢をなくしかけたの。だれかの真似ばかりしてたら、自分がどこにいるかわからなくなった」

 女の子は少しさみしそうに笑った。

 (夢をまねるだけじゃ、本当の夢にはならない……)

 そのとき、ホールの天井からまたもや文字がふわりと現れた。

 【読者クイズ!】
 次のうち、本物の夢を表すステップはどれ?

 A. 速くて派手なターンを何度もくり返すステップ
 B. ゆっくりだけど、自分のリズムで踊るステップ
 C. だれかと全く同じ動きでそろえるステップ

 「これは……本当の夢ってなにか、っていう問いなのかも」

 菜々美はホールの中心に目を向けた。
 そこには一人だけ、ゆっくりだけどしっかりとした足取りで踊るバレリーナがいた。

 「わたし……答えは、Bの“自分のリズムで踊るステップ”だと思う!」

 すると、ガラスの床がぱあっと光り、まちがった幻のバレリーナたちは、すうっと消えていった。

 その中央に、一冊のノートが落ちていた。
 開くと、手書きの文字が書かれていた。

 「これはわたしだけの夢。
 うまくなくても、まっすぐで、わたしだけのもの。」

 「このノート、きっとあの子の……」

 ページの中から、ふわりと光があふれ出し、やがてそれは“バレエシューズの形をしたカギ”に変わった。

 「これが……第二のカギ!」

 菜々美はしっかりとそれを手にとる。

 「自分だけの夢を信じること……それが、ほんもののステップなんだね」

 その言葉に、となりの女の子がうれしそうに笑った。

 「ありがとう、わたし、もう大丈夫。あなたのおかげで、また踊りたくなったの」

 そのとき、空間がやさしくゆれて、菜々美はまた光に包まれていく。