きらめき夢界ものがたり ~ナナミと四つのカギ~

 夢界裁判が終わったあと、菜々美たちの前に現れたのは、重厚な扉だった。
 四つのカギと五つの信頼の石がそろった今、扉は音もなく開かれていく。

 その先は、まっしろな広間。
 天井は空のように高く、壁にはなにかの記憶が映し出されていた。

 「ここは、“夢の記憶庫”。すべての夢が生まれる場所」

 案内役の声が響いた。
 広間の中央にあったのは、五つの椅子と、円卓。
 その真ん中に、カギ穴のようなものが四つ並んでいた。

 「さあ、四つのカギをさして」

 菜々美たちは順番にカギを差しこむ。
 羽のカギ。バレエシューズのカギ。音符のカギ。光のしずくのカギ。
 最後のカギを差した瞬間、空間全体があたたかい光に包まれた。

 壁に次々と映し出されるのは、それぞれの子どもたちの“はじまりの夢”。

 「わたし……小さいころ、よく妹に物語を作って聞かせてた」

 由香里がぽつりと語る。

 「僕はね、遠くの海を泳いでみたいって思ってたんだ。イルカと話せるくらいに」

 海音の夢も、照れながら語られる。

 「でも、夢って、途中で忘れたり、かくしたりするんだね。
 だれかに笑われたり、現実に流されたりして」

 菜々美は、壁のひとつに映った“自分の幼い姿”を見つめながら言った。

 「だからカギは、夢を開くためじゃなく、夢を思い出すためのものだったんだ」

 案内役が静かにうなずいた。

 「その通り。夢はどこにも行かない。忘れそうになったときに思い出せるように、カギは作られた」

 すると、円卓の中央に文字が浮かびあがった。

 【最後の記憶パズル】
 五人のうち、いちばん最初に夢を語ったのはだれ?
 そして、なにをきっかけに?

 「最初に語ったのは……」

 菜々美は指をさした。

 「由香里。きっかけは“妹との時間”だった」

 正解だった。

 光の模様が浮かび、夢の記憶庫の床がゆっくりと開く。
 その奥から、小さな“種”のようなものが現れる。

 「これは、“夢の種”。これを持って現実に戻れば、夢界と現実をつなぐ力になる」

 菜々美がその種を手にすると、視界がゆっくりとかすんでいった。

 次に目を開けたとき、そこはもう、いつもの図書室だった。

 机の上には夢の本。そして、その上には小さな、きらめく種がひとつだけ残っていた。